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支援者のトラウマ 代理トラウマ

カウンセラーや警察官などの支援者が二次的(代理的)にトラウマを負うことがあります。代理受傷、二次受傷、二次的外傷性ストレス、共感性疲労などとも呼ばれます。ひどい体験をした人の話を聞いたり、被害者の救助等のために日常とはかけ離れた悲惨な出来事を目撃したことで生じるトラウマ的ストレス反応です。

目次

代理トラウマはPTSDのひとつ

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、以下の①から④いずれかの体験後に発症する可能性があります。

①本人が危うく死ぬ体験をしたり、重傷を負ったり、性的暴力を直接体験した。

②誰かが死んだり、危うく死にそうになったり、重傷を負ったり、性的暴力を受けるのを目撃した。
例えば、通学や通勤途中で交通事故などを目撃したり、自然災害などで人が亡くなったり重傷を負っているのを目撃することが該当します。

③近親者や親しい友人が死んだり、危うく死ぬ体験をしたり、重傷を負ったり、性的暴力を受けたことを聞いた。
例えば、子供やパートナーなどが犯罪や事故に巻き込まれたり、大地震や津波などの自然災害に遭ったことを聞いた。

④大変な被害を受けた人やPTSDを発症した人を支援する仕事の中で、対象者の大変な体験の細部を苦痛を伴って見聞きした。
例えば、災害救援者がひどい遺体を目撃したりカウンセラーが被害者の大変な体験細部を苦痛を伴いつつ見聞きした。支援者がなりやすい代理トラウマです。

PTSDには大きく分けて4つの症状があります。代理トラウマでも同じ症状が現れます。

①侵入 苦痛な記憶、夢、フラッシュバックがあり、心理的苦痛を感じて汗が出たり心臓がドキドキする。
②回避 トラウマを思い出したり、考えたり、感じたりすることを避ける。その場所、人、行動、物などを避ける。
③認知と気分の陰性変化 自分や他者への否定的な信念、ネガティブ感情、孤立感、無関心、楽しめない。
④覚醒度と反応性の著しい変化 激しい怒り、自己破壊的行動、警戒心や驚愕反応、集中できない、眠れない。

支援者にこれらの症状が出ている場合は、代理トラウマの可能性が高いので自分自身のケアが必要になります。

代理トラウマの症状

代理トラウマにはPTSD症状に加えて、「心」「身体」「行動」にさまざまな症状が現れます。

・相手が話した生々しい場面が繰り返し頭の中で再生される。
・目撃したことが頭から離れない。
・対象者のことを考えて眠れない。
・自分がなんとかしなくちゃと思っている。
・相手が話した体験を夢に見る。
・無力感を感じる。
・イライラしたり、感情が爆発してしまう。
・役に立っていないと感じる。
・仕事仲間のことが信頼できなくなる。
・夜道を歩くのが怖くなる。
・小さな物音に敏感になる。
・家族の安全を極度に心配する。
・配偶者や恋人との親密な関係を維持できなくなる。
・お酒を飲みすぎてしまう。
・誰にも会いたくなくなる。
・血圧や血糖値が上がる。
・消化器官の調子が悪い。
・自律神経失調症になる。
・めまいがする。
・体に力が入っていて肩や首の凝りがひどい。
・顎関節症になる。
・自己免疫疾患になる。
・頻繁に頭痛がある。
・気分が滅入る。
・うつ状態になる。
・癌になる。

PTSDの症状は、代理トラウマと気付きやすいですが、それ以外の症状が出ている場合には気づかないことが多いです。日々の仕事の中で大変な体験をした人の援助をしたり、トラウマを負った患者やクライエントと接していると、気づかないうちにトラウマ的ストレスが蓄積されます。

トラウマは非日常的な大きなストレス反応を生じさせます。トラウマティック・ストレス反応と言います。トラウマティック・ストレス反応を示している人を支援していると、支援者の身体にも同様のトラウマティック・ストレス反応が生じます。そして、支援者の身体は危険に晒されている時と同じように反応します。HPA軸が活性化しストレスホルモンが放出されます。ストレスホルモンにより戦ったり逃げたりするためのエネルギーが生まれます。交感神経系も活性化します。ストレスホルモンの放出と交感神経の活性化は本来は逃げたり戦ったりするためのものです。短時間に大きなエネルギーと力を生み出し命を守るためのものです。

しかし、トラウマの支援者は日常的にこのエネルギーと力に晒されています。日常が非日常になっています。この状態が長く続くとどうなるでしょうか。一見すると代理トラウマとは気づきにくい症状に発展します。

高血圧になる、血糖値が高くなる、自律神経が乱れる、めまいや頭痛が出る、体が痛い、肩凝り、顎を食いしばる、免疫機能が乱れる、気分が落ち込む、うつ病になる、過敏性腸症候群になる、癌になる、家族関係が悪くなる、仕事が続けられなくなる。

私の知り合いのカウンセラーは真面目で一生懸命な人が多いのですが、上にあげたような病気になってしまう人がたくさんいます。カウンセラーではなくても、これを読んでいるあなたやあなたの知り合いがトラウマを負っている人の支援者だとしたら、体調や心の状態はどうか、無理をしていないかどうか、一度立ち止まってみてください。

災害救援者のチェックリスト

代理トラウマを負っているかどうかを客観的に見ることは大切なことです。災害救援者のチェックリスト(加藤,2001)をご紹介します。

A.状 況
1.通常では考えられない活動状況であった。
2.悲惨な光景や状況に遭遇した。
3.ひどい状態の遺体を眼にした,あるいは扱った。
4.自分の子どもと同じ年齢の子どもの遺体を扱った。
5.被害者が知り合いだった。
6.自分自身あるいは家族が被災した。
7.救援活動をとおして殉職者やケガ人が出た。
8.救援活動をとおして命の危険を感じた。
9.救援を断念せざるを得なかった。
10.十分な活動ができなかった。
11.住民やマスコミと対立したり,非難された。

B.活動後の気持ちの変化
1.動揺した,とてもショックを受けた。
2.精神的にとても疲れた。
3.被害者の状況を,自分のことのように感じてしまった。
4.誰にも体験や気持ちを話せなかった,話しても仕方がないと思った。
5.上司や同僚あるいは組織に対して怒り・不信感を抱いた。
6.この仕事に就いたことを後悔した。
7.仕事に対するやる気をなくした,辞めようと思っている。
8.投げやりになり皮肉な考え方をしがちである。
9.あの時ああすれば良かったと自分を責めてしまう。
10.自分は何もできない,役に立たないという無力感を抱いている。
11.何となく身体の調子が悪い。

この表は,救援活動の心理的影響を考える目安となるものであり,Aの項目を2個以上満たす時は,心理的影響が生じる可能性の高い活動と考えられる.また,Bに3個以上該当する項目がある時には,救援活動による心理的影響が強く現れており,何らかの対処が必要とされる。

代理トラウマを負う可能性のある職業

これらの職業の人が全て代理トラウマを負うわけではありません。しかし、他の職業の人よりも可能性は高いです。もし、代理トラウマを負っても決して恥ずべきものではありません。弱いわけでもありません。

代理トラウマは、非日常的な大きなストレスを体験した時に生じる「正常な反応」です。

・ひどい体験をした人を最初に支援する人
(消防士、レスキュー隊員、救急隊員、警察官、自衛隊員、ER、DMAT、児童相談所職員など)

・ひどい体験をした人に継続的に支援をする人
(医師、看護師、カウンセラー、相談員、児童養護施設職員など)

・ひどい体験をした人に関わる人
(ジャーナリスト、被災者の調査をしている研究者、被災者が通う学校の教職員など)

代理トラウマのセルフケア

ひどい体験をした人の話を聞いたり、災害や事故の現場で亡くなっていたりする人と接してショックを受けたり、怖くなったり、助けたいけれど立ち去りたい気持ちになったりすることは、ごく当たり前のことです。決して恥ずかしいことではありません。

<あなたに現れた反応は、自然な反応です>
・心や体や行動に現れた反応は、緊急時に現れる自然な反応です。
・自分の気持ちをそのまま受け入れましょう。
・自分の行動をそのまま受け止めましょう。
・自分の体験や気持ちを仲間と話し合いましょう。
・人としての限界を知り仲間と協力しましょう。
・家族や友人と時間を過ごしましょう。
・食事をとり運動をしましょう。
・心と体と行動の反応が自然と収まってくるのを待ちましょう。

<仕事仲間とのつながりを持ちましょう>
・一人で抱え込まないで同僚や上司に相談しましょう。
・ケースカンファレンスやスーパーヴィジョンを受けましょう。
・ケースを相談できる専門家の仲間とつながりましょう。
・同僚や上司とたわいのない会話を楽しましょう。

代理トラウマの専門的ケア

多くの場合、家族や友人などの身近な人の援助や自分自身の対処行動で1~2ヶ月程度で回復します。
しかし、次のような場合は専門的ケアを考えてみましょう。

・何日も眠れない。
・食事が喉を通らない。
・強い緊張や興奮が収まらない。
・フラッシュバックや悪夢が続く。
・身体症状が深刻である。
・死んでしまいたい。

上記の症状ではないものの、数ヶ月たっても回復に至らない場合は、専門的ケアを受けてみましょう。
精神科や心療内科などの精神医療的ケア、カウンセリングや心理療法などの心理的ケア、鍼灸マッサージやボディワークなどの身体的ケアなどのサポートを受けてみましょう。

トラウマに有効なカウンセリングや心理療法はたくさんあります。PTSDの症状があり、フラッシュバックや回避、認知と気分の陰性変化には、持続的エクスポージャー療法や認知処理療法、EMDRなどが効果的です。トラウマに関連した物、状況、記憶やイメージに、繰り返し安全に向き合うことで、不適応な不安を軽減し、認知を変化させます。

しかし、心や体や行動に現れる症状が慢性化していたり、頭痛や体の痛み、筋肉の緊張や凝り、自律神経の乱れ、消化器や循環器の不調、免疫系の不全、アルコールなどへの依存がある場合は、認知や感情面だけでなく身体へのアプローチが求められます。このような場合は、ソマティック・エクスペリエンシング®️(SE™️)やSE™️タッチセラピーなどが有効です。

SE™️やSE™️タッチセラピーは、身体に残っているトラウマ由来の未解決の防衛反応のエネルギーを解放していきます。ひどい体験をしたり、目撃したり、話を聞いたりすると私たちの身体には生物学的な防衛反応が生じます。逃走闘争反応を生じるためのエネルギーが生まれます。野生の動物は本能的な防衛反応が自然に生じるのでエネルギーを使って逃げたり、戦ったり、逃げられない場合には擬死状態になります。擬死状態になっても危険が去ると防衛反応のエネルギーを体から出して通常の生活に戻ります。

しかし、私たち人間には理性があるため「逃げてはだめ、戦ってはだめ」となります。特に支援者として救助に赴いたり、ひどい体験をした人の話を聞く時には逃走闘争反応を抑制しがちです。また、自分の心が耐えられないくらい悲惨な状態を目撃したり聞いたりすると凍りつきが生じますが、そこから去ったり家に帰って安全が確保されても凍りつきから抜け出せません。この時体の中には危険に対処するために集められた防衛反応のためのエネルギーが溜まっています。出口がないエネルギーの蓄積のため身体面への不調が現れています。長年に渡りエネルギーが滞るために様々な身体の病気に発展していきます。

SE™️やSE™️タッチセラピーのユニークな点は、必ずしもトラウマ的出来事を話す必要がないということです。トラウマ的出来事を思い出すだけで自律神経系に変化が見られます。自律神経系にトラウマ由来のエネルギーが蓄積されているからです。

SE™️は、椅子に座って対話をしながら進めていきます。SE™️タッチセラピーは、ベッドの上に横になって、トラウマ由来のエネルギーが溜まっている関節や隔膜、内臓にセラピストが安全に触れていきます。セラピストが触れることに抵抗がある場合には、クライエント自身がセルフタッチをします。

SE™️やSE™️タッチセラピーを受けてみたい方はご連絡ください。対面だけでなくオンラインで受けることもできます。

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