トラウマを克服するには?
トラウマって何?トラウマとPTSDって違うの?どうすればトラウマを乗り越えられるの?カウンセラーが語ってみました。
目次
- ○ トラウマとは
- ・ショックトラウマ
- ・発達性トラウマ
- ○ トラウマとPTSD(心的外傷後ストレス障害)
- ・PTSDの症状とは
- ・複雑性PTSDの症状とは
- ・トラウマの症状とは
- ○ トラウマの克服
- ・トラウマインフォームドケア
- ・サイコロジカル・ファーストエイド
- ・レジリエンスを育む
- ・トラウマの生理学
- ・トラウマ症状を解放する
- ○ 「トラウマかもしれない」と思ったら
- ・精神科や心療内科を受診する
- ・カウンセリングやセラピーを受ける
- ○ カウンセラーやセラピストの選び方
- ・臨床心理士や公認心理師を探す
- ・トラウマの専門的トレーニングを受けているかどうか
- ○ トラウマの治療法の選び方
- ・薬物療法
- ・非トラウマ焦点化心理療法
- ・トラウマ焦点化心理療法
- ・EMDR
- ・ソマティック・エクスペリエンシング®️(SE™️)
- ○ トラウマを克服するセラピーを受けてみたい
トラウマとは
トラウマとはなんでしょう?最近はトラウマという言葉は日常的に見聞きすることが増えてきました。若者が「彼女と別れたことはトラウマになっているんだよね。」などと言っているのを聞いたりします。ドラマや小説、アニメでも「嫌な思い出」のようなニュアンスで使われていますよね。でも、元々はトラウマ(Trauma)とは、古代ギリシャ語で「傷」を意味する言葉です。「嫌な思い出」では片付けられないつらさがあります。見た目では分かりませんが、心の中に癒えていない傷を抱えている状態です。
では、どのような体験がトラウマとなるのでしょうか?専門的に見ると、
・ものすごく怖い。
・誰も助けてくれる人がいない。
・私にはどうしようもできない。
・もうダメだ。死んでしまう。
これらを「耐えられないくらい感じる」体験をトラウマと呼びます。そして、トラウマは大きく分けると、ショックトラウマと発達性トラウマに分けることができます。
ショックトラウマ
ショックトラウマとは、災害や犯罪に巻き込まれる、暴力や性暴力を受ける、交通事故や大きな怪我をする、大切な人を突然に失う、戦争体験など、大きなショックを体験することです。
このような体験が繰り返されてトラウマになることもあれば、1回限りの体験でもトラウマになることがあります。
また、自分の周りの人がこのようなことを体験したという話を聞いたり、目撃したりすることもトラウマになる可能性があります。
発達性トラウマ
発達性トラウマとは、周産期、乳幼児期や児童期などの発達の初期の体験で生じるトラウマです。母親の胎内にいるときの影響、出生体験、乳幼児期の手術、入院などでの養育者との分離体験、小児逆境体験などで発達性トラウマになる可能性があります。
小児逆境体験(Adverse Childhood Experience:ACE)とは、虐待や家族の機能不全を体験することです。心理的・身体的・性的虐待やネグレクトなどがあったり、家族がアルコールや薬物などの依存症だったり、家族が精神疾患だったり、母親などへの暴力を目撃したり、家庭内での犯罪行動などの家族の機能不全がACEに含まれます。
しかし、ACEなどの大きな体験ではなくとも、養育者と安定的な愛着(アタッチメント)が形成されていない場合も発達性トラウマになる可能性があります。例えば、遊んでいて転んで泣いて母親(養育者)の元に戻った時に「痛かったね。よしよし」と抱っこしてもらえたり、イライラしている時や悲しい時に母親(養育者)が気持ちをわかってくれて「怒っているんだね。悲しいね。」と落ち着かせてもらえると、安定的な愛着が形成されます。
子どもの時に衣食住は十分に与えられていて、欲しいおもちゃやゲームをもらえていたり、塾や習い事をやらせてもらっても、気持ちを分かってもらえたり、波長を合わせてもらえる体験が少ないと発達性トラウマになることがあります。
トラウマとPTSD(心的外傷後ストレス障害)
トラウマとPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、重複しているところと異なっているところがあります。
「トラウマになった」など、トラウマという言葉は気軽に使われますが、「PTSDになった」とは自己判断では使えません。
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)は、診察した医師が使う診断名です。PTSDは、トラウマとなった大きなストレス体験の後に生じるさまざまな症状から成り立っています。そしてPTSDの症状は、医学的診断なので明確に定められています。
一方、トラウマはより広い概念で、トラウマの一部がPTSDです。PTSDとは診断されなくてもトラウマが背景にある問題はたくさんあります。
PTSDの症状とは
PTSD(心的外傷後ストレス障害)は医師が何度も診察した後に診断されます。自分で自己判断してPTSDと言うことはできません。
参考までに説明すると、PTSDの診断基準には、出来事基準があります。(DSM-5)
①実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事を直接体験した。
②上記①が他人に起こったのを直に目撃した。
③近親者や親しい友人が上記①を体験したことを聞いた。
④仕事で上記①の細部を苦痛を伴いつつ見聞きした。
上記の出来事がない場合には、症状がどれほど重くてもPTSDとは診断されません。
出来事基準があって、侵入症状が1つ以上、回避症状が1つ以上、認知と気分の陰性変化が2つ以上、覚醒度と反応性の著しい変化が2つ以上ある。そして、それが1ヶ月以上続く場合をPTSDと言います。
・侵入症状とは、苦痛な記憶、夢、フラッシュバックがあり、心理的苦痛を感じて汗が出たり心臓がドキドキする。
・回避症状とは、トラウマ的出来事についての思い出したり、考えたり、感じたりすることを避ける。それに関連する場所、人、行動、物などを避けること。
・認知と気分の陰性変化とは、自分や他者への否定的な信念、持続的なネガティブ感情、孤立感、無関心、楽しめないなど。
・覚醒度と反応性の著しい変化とは、激しい怒り、自己破壊的行動、警戒心や驚愕反応、集中できない、眠れないなど。
このような症状があるかどうか、他の病気がないかを総合的に判断します。
複雑性PTSDの症状とは
複雑性PTSDとは新しい診断基準です。(ICD-11)同様に医師の診察のもと診断されます。
DSM-5とは異なるので少し分かりにくいですが、簡単にいうと、上で述べたPTSDの症状に以下の2つが追加されたものです。
・感情調律不全・・・感情が過剰あるいは乏しすぎる。
・対人関係困難・・・対人関係を維持したり、他者に親密感を抱くことが難しい。
「自分は弱い、敗北した人間だ、自分には価値がない」という認知と気分の陰性変化もあります。
トラウマの症状とは
トラウマが背景にあると、さまざまな症状が表面化して現れます。
例えば、うつ病、躁うつ病、アルコール依存症、社交不安、パニック障害、適応障害、バーソナリティ障害など。
また、ADHDや自閉的傾向がある人の背景にトラウマが隠れている場合もあります。臨床的に見ると、先天的な発達障害とトラウマが混じっている場合も多いです。
また、子ども時代の逆境的な体験が多いほど、人は社会的、情動的、認知的な問題を抱える可能性が高まります。その結果、喫煙、暴飲暴食、 薬物依存等の危険な行動が多くなり、それが病気に罹患したり事故で障害をもつ可能性を高め、 犯罪の原因にもなります。そして、人が早期に死を迎える可能性を高めると言われます。「FelittiらのACE研究」
また、日常的な人間関係の悩みの背景にトラウマがある場合があります。例えば、親密な関係になることができない、DVをする人と何度も恋愛関係になる。職場ではいい人をやっていて仕事を引き受け過ぎてしまうが家に帰るとぐったりして何もできない。
親子関係や夫婦関係の背景にトラウマがある場合もあります。子どもやパートナーに対する怒りが止まらなくなってしまう。子供の頃に自分が受けた体罰を子供にしてしまう。
トラウマが身体の不調として現れることもあります。例えば、偏頭痛、過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、自己免疫疾患、自律神経失調症などの背景にトラウマが隠れている場合があります。
トラウマの克服
トラウマは、苦しかった過去の出来事ではありません。現在でもその苦しみが続いている状態です。
ということは、トラウマの克服とは、「 過去の記憶にできる」「思い出しても大丈夫になる」ことです。
また、多くのトラウマは自然回復します。
日本人で何らかのトラウマ的出来事の体験がある人は60.7%です。
そのうち、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になる人が1.3%です。
残りの人は自然と良くなっていきます。
トラウマインフォームドケア
トラウマインフォームドケアとは、トラウマを念頭に置いたケアのことを言います。
さまざまな疾患の患者やクライエントのケアを行う際に、トラウマを体験している可能性やトラウマの苦痛を和らげようとする不適切な対処行動が現在の症状につながった可能性を想定して関わることです。
例えば、職場の上司の叱責があってから職場に行けなくなってしまった人が、子供の頃に親から心理的虐待を受けていたなどがあります。
また、フラッシュバックの心理的苦痛を和らげるためにリストカットやアルコールを飲む子で対処しようとすることなどもあります。
「もしかするとトラウマがあるかもしれない」という視点はとても大切です。
サイコロジカル・ファーストエイド
サイコロジカル・ファーストエイドとは、大変なことが起きた直後の相手へ接し方です。大変なことを体験すると誰でも気持ちが不安定になります。
交感神経が活性化しているので眠れなくなったり、イライラしたり、パニックになったりしますが、それは大変な状況への自然な反応です。多くの人が1ヶ月くらいで落ち着いてきます。
あなたの身近な人が大変な出来事に遭遇したら次のようなサイコロジカル・ファーストエイドをしてあげてください。
・穏やかな優しい声で話す。
・ときどき目を合わせながら話す。
・相手が安全であること、あなたが援助のためにいることを知ってもらう。
・現実感を喪失している場合は、以下のような手助けをする。
ー自分自身に触れる(床の上の足を感じる、太ももをたたく)
ー周囲に目を向ける(周りにあるものに注意を向ける)
ー呼吸を整える(呼吸に集中し、ゆっくりと息をする)
レジリエンスを育む
私たちは毎日ストレスを受けていますがそのうち元に戻りますよね。バネの喩えで言うと、ストレスでバネが縮んでも跳ね返す力で元のバネの幅になります。これはレジリエンス(回復力)が十分な状態です。
「あの時は大変だったけれど、今は大丈夫」
しかし、トラウマとなるような体験(トラウマティック・ストレス)を受けると、その出来事が終わってもバネが縮んだままになってしまいます。レジリエンスが低い状態です。
「今でもあの時のことが思い出されて怖くなる」
でも、同じことを体験してもある人はトラウマになり、別の人はトラウマにならないこともあります。人は皆レジリエンス(回復力)が異なっています。
レジリエンスは、主に乳幼児期や児童期に養育者に共感や波長を合わせてもらうことで育っていきます。発達性トラウマを持つ人はレジリエンスが低い傾向にあります。
レジリエンスが低いと、自分で自分の感情や自律神経を落ち着けることができなかったり、誰かと一緒にいても緊張してしまいリラックスすることができません。
レジリエンスは大人になってからも育てて行くことができます。カフェで一人でほっとする時間を作ったり、外に出て周りの風景を見渡したり、鏡の前で表情筋を動かしたり、このようなことを続けていくと、誰かと一緒にいても気楽にいられるようになります。そんな時レジリエンスが広がってきたことが実感できます。
トラウマの生理学
トラウマは最初に私たちの身体に影響を与えます。そして、その影響が私たち全体に広がります。
大変な出来事 ⇨ 身体 ⇨ 感情、思考、行動
大変な出来事を体験した時、身体にどのような反応が生じるのかを理解すると、トラウマからの回復の道筋が見えてきます。
実は、人間を含むほとんどの動物は、大変な出来事=危険に対して同じ反応をします。それは自律神経の自動的な反応です。
1つ目は、闘争逃走反応です。危険が迫ると戦うか逃げるためのエネルギーが作られます。実際に戦ったり逃げたりして危険が去るとエネルギーが放出され、落ち着いて日常生活に戻ります。
危険 !!
⇨ 交感神経の活性化 ⇨ エネルギー増加 ⇨ 動きたい衝動
⇨ 闘争逃走反応(戦うか逃げる)= エネルギーの放出
⇨ 副交感神経の働き ⇨ 休息・消化・修復
2つ目は、凍りつき反応です。危険が迫り戦ったり逃げたりするためのエネルギーが作られますが、危険が大きすぎる場合戦ったり逃げたりする代わりに凍りつきます。襲われたインパラやオポッサムが崩れ落ちるのが凍りつきです。危険をやり過ごせると体がブルブル震えてエネルギーが放出され、落ち着いて日常生活に戻ります。
危険 !!
⇨ 交感神経の活性化 ⇨ エネルギー増加 ⇨ 動きたい衝動
⇨ 戦えない・逃げられない ⇨ 凍りつき
⇨ 凍りつきから抜け出る=エネルギーの放出
⇨ 副交感神経の働き ⇨ 休息・消化・修復
これらの反応は危険に遭遇した時の自律神経の自然な反応です。このような一連の流れを経ることで動物や私たち人間は生き残ることができ、危険な出来事を体験してもトラウマになることはありません。
トラウマ症状を解放する
しかし、私たち人間は危険な出来事に遭遇するとトラウマになる場合があります。
動物は自律神経の反応を本質的に最後まで完了させます。しかし、人間は自律神経の反応を避け、無視して、完了を妨げてしまいます。
すると、体は危険が過ぎ去ったことを十分に記録しません。体は「まだ危険にさらされている」と信じています。すると、体の中では戦ったり逃げたりするためのエネルギーが行き場がないままに閉じ込められてしまいます。
その結果として、不安、パニック、多動、過度な驚き、過剰な警戒、感情の氾濫、消化器系の問題、慢性的な痛み、不眠、リラックスできない、落ち着けない、敵意・激怒などの症状が続いてしまいます。凍りつきのままだと、うつ、感情が平坦、無気力、慢性疲労、解離、疲弊、低血圧、さまざまな症候群、消化不良などの症状が続きます。
つまり、生理学的にみると、トラウマ症状とは危険に対処するためのエネルギーが体の中に蓄積されている状態です。生き残るためのエネルギーが症状を作り出しています。そのエネルギーを体の中から出すことができるとトラウマ症状から開放されます。
「トラウマかもしれない」と思ったら
この記事を見ているあなたは、もしかしたら、自分にはトラウマがあるかもしれないと思っているかもしれません。トラウマは多くの人が体験していて自然に回復しますが、1年以上続いている場合には自然回復がうまくいっていない可能性があります。そのような場合は、トラウマからの回復力を取り戻すためにサポートを得た方が良いと思います。
精神科や心療内科を受診する
精神科や心療内科の医師は、病歴を聴取し、あなたの症状がPTSDに該当するかどうかを判断してくれます。場合によっては心理テストを行うこともあります。また、PTSDには併存疾患があります。
うつ病が50%、アルコール依存が40%、社交不安が30%、パニック障害が10%くらいあります。
PTSDだけではなく、合併する疾患も診てもらえます。特別なトラウマ治療のトレーニングを受けていれば別ですが、精神科医や心療内科医の多くはカウンセリングは行いません。診察と服薬管理が主となります。
カウンセリングやセラピーを受ける
精神科や心療内科の病院やクリニックにカウンセラーがいる場合は、カウンセリングや心理療法を受けることができます。保険適用でカウンセリングを受けることができるところもありますが、多くはカウンセリング代は別になります。
また、病院やクリニック以外でもカウンセリングを受けることができます。精神保健福祉センターなどの行政機関、大学などの教育機関、私設のカウンセリングルームなどで心理相談を受けることができます。
カウンセラーやセラピストの選び方
カウンセラーやセラピストをどのように選んだらいいか分からなくなる場合もありますよね。人間なので相性が合うかどうかも大きいですが、トラウマを治療する知識や技術を持っているかどうかはとても重要な問題です。
臨床心理士や公認心理師を探す
臨床心理士になるには大学と大学院でカウンセリングや臨床に関わる心理学を学び、資格認定試験に合格しなければなりません。臨床心理士になってからは5年ごとに資格の更新があるので継続的に研修を受ける必要があります。公益財団が発行している民間資格ですが、カウンセリングや心理テストをする知識や技能を保有していると考えて良いと思います。
公認心理師になるには同様に大学と大学院で心理学を学び、資格認定試験に合格しなければなりません。こちらは国家資格なので資格の更新などはありませんが生涯にわたる自己研鑽が求められています。
臨床心理士と公認心理師は、心の専門家として社会的に認められています。カウンセラーやセラピストを探している時は、臨床心理士と公認心理師の両方の資格を持っているか、もしくはどちらかの資格を持っているかどうか聞いてみることをお勧めします。
その他にもさまざまな民間資格がありますが、それぞれの団体が独自に資格を発行しています。数時間の研修で資格が発行されるものもあります。資格を得るためにどのような教育や研修を受けたのかを尋ねてみると良いでしょう。中には自らが開発した手法で大きな治療効果を謳っているセラピストもいますよね。期待もあるので本当かどうか判断しにくいこともあると思います。そのような時は、あなたがそのセラピストに安心できるかどうかが一番のポイントです。
トラウマの専門的トレーニングを受けているかどうか
臨床心理士や公認心理師だとしても、トラウマセラピーの専門的トレーニングを受けているかどうかは大きな違いがあります。カウンセリングや心理療法の分野は広いので、トラウマについてのトレーニングを受けていないカウンセラーやセラピストも多くいます。医者にも外科医、内科医、精神科医がいるように、カウンセラーやセラピストもその人が力を入れている分野があります。
トラウマについて特別なトレーニングを受けていないカウンセラーに話を聞いてもらったら余計悪くなったというケースもよくあります。もし、あなたがトラウマが1番の苦しみならば、カウンセリングを申し込む前にトラウマセラピーのトレーニング歴を尋ねてみると良いでしょう。
トラウマの治療法の選び方
トラウマの治療法にもたくさんの種類があります。どの治療法を選んだらいいか分からないですよね。少しでも参考になって判断がしやすくなるように分かりやすく説明したいと思います。
薬物療法
精神科の医師が処方します。トラウマに対してある程度の効果がある薬はSSRIです。しかし、治療反応はゆっくりです。
SSRI を適切な用量から投与開始した場合、1~2 週間投与しなくては効果が見られません。ある程度の反応が期待できるのは 4~6 週間後です。12 週間後には多くの患者が改善し、少なくとも50%の症状の軽減が期待できます。
さらに治療を継続することによって、PTSD の中核症状と全般的な機能がより改善することが多いです。投与開始から 3~6ヵ月後に寛解状態になることが薬物療法の治療目標です。
薬物療法は、ある程度の効果が期待されますが、心理療法の方が効果は高いです。
非トラウマ焦点化心理療法
非トラウマ焦点化心理療法とは、トラウマについて掘り下げて話さない心理療法です。トラウマを抱えている人の苦悩を減らすには、他者からのサポートが最も大切という視点で行われています。
例えば、現在中心療法という方法では、トラウマ的出来事は話題にしません。代わりに毎日の生活で問題となっていること、対人関係で困難なこと、怒り・不安や気分の落ち込みなどの感情、ストレス要因などに注目していきます。そして、トラウマによって生じる一般的な症状について説明し、患者やクライエントに日々の自分の困りごととトラウマ症状との橋渡しをします。悩まされていたことがトラウマの症状だったんだと分かることで冷静に対処できるようになります。
また、日記を使います。毎日の生活でのストレスについて記録して、セッションで振り返ります。トラウマについては直接扱いませんが、トラウマ症状が比較的よくなる結果が出ています。
トラウマ焦点化心理療法
代表的なトラウマ焦点化心理療法は、持続エクスポージャー療法(Prolonged Exposure Therapy :PE)です。PEは、Edona Foa博士が開発した、PTSDに特化した認知行動療法です。
エクスポージャーとは暴露という意味です。つまり、トラウマに関連した物、状況、記憶やイメージに、繰り返し安全に向き合うことで、不適応な不安を軽減します。何度もエクスポージャーをすることで、患者やクライエントは恐れているような結果は起こらないこと、したがってそういう恐れは非現実的であることを理解します。
トラウマ反応についての心理教育後に、不安対処の呼吸法を練習します。その後にエクスポージャーを導入します。まずは現実エクスポージャーを行います。トラウマが思い出されるため回避している場所や状況に繰り返し向かい合います。回避せずに直面することで、苦痛が減り、患者やクライエントはこれまで避けてきた状況は危険ではないこと、自分は苦痛に対処できることに気づきます。
次は、想像エクスポージャーです。トラウマを思い出し、そのことをセラピストに話し、感情や身体感覚を活性化させながら処理していきます。想像の中でトラウマに向き合うことで処理を促し、トラウマへの現実的な視点を持てるように手助けします。
PEはPTSDに有効ですが、トラウマ体験を十分に記憶しており、語ることができる人向けの心理療法です。記憶が曖昧なトラウマだったり覚えていないトラウマには適用できません。
EMDR
EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)は、Francine Shapiro博士が開発した、トラウマやPTSDの治療に有効な心理療法です。
EMDRでは、トラウマというものは記憶が不完全に処理された状態と見ています。いわば冷凍保存のような状態です。その冷凍保存の記憶が何らかのトリガーで解凍されると、過去の記憶にも関わらず今現在体験しているようなつらさを味わいます。フラッシュバックと呼ばれる症状です。EMDRはそのような不適切な記憶を処理して、通常の記憶にしていく方法です。
患者やクライアントは、つらい過去の記憶を思い出しながら、セラピストが左右に指先を動かすのを目で追います。患者やクライエントは自分の眼球を左右に動かすことになります。そうするとトラウマ記憶による苦痛な症状が減っていき、トラウマ記憶に対して新しい理解や意味づけが生まれます。
ソマティック・エクスペリエンシング®️(SE™️)
ソマティック・エクスペリエンシング®️(SE™️)とは、Peter Levine博士が開発した、身体(ソマティック)に働きかけるトラウマ療法です。トラウマの生理学を活用した方法です。
大変な出来事=危険に直面すると、体の中ではその危険に対処(戦う、逃げる、凍りつく)するためのエネルギーが作り出されます。野生動物は危険が去るとそのエネルギーを自然に開放しますが、人間はそのエネルギーを抑圧するため体の中に蓄積されています。その蓄積されたエネルギーが、トラウマに起因する症状を作り出しています。
トラウマへの心理療法の多くは言葉を解して心理面に働きかけます。そのため患者やクライエントにトラウマとなった出来事を話してもらう必要があります。SE™️のユニークな点は、必ずしもトラウマ的出来事を話す必要がないということです。トラウマ的出来事を思い出すだけで患者やクライエントの自律神経系に変化が見られます。自律神経系にトラウマ由来のエネルギーが蓄積されているからです。自律神経系はトラウマへのアクセスポイントです。
トラウマにアクセスすると、感覚、感情、イメージ、行動、思考が出てきます。SE™️のユニークな点の二つ目は、スローダウンとタイトレーションです。トラウマに圧倒されてしまうのは、一瞬のうちに一気に溢れ出てくるからです。SE™️では、トラウマの渦に巻き込まれないように、ゆっくりと少しずつトラウマに溜まっているエネルギーを解放していきます。
SE™️では、必ずしもトラウマ的出来事を話す必要はないと書きましたが、患者やクライエントが話したいという場合はカウンセリングと同様に耳を傾け、共感して受容します。お互いの人間関係をとても大切にします。話を聴いてくれる人、分かってくれる人、受け止めてくれる人がいることがトラウマを抱える人の一番のサポートになります。
SE™️のユニークな点の3つ目は、対話だけではなくタッチセラピーもあるということです。記憶に残っているトラウマについては思い出したり話したりすることでトラウマにアクセスできますが、覚えていないトラウマもあります。特に胎児の時や乳幼児期の体験は言葉を獲得する以前なので通常の記憶には残りません。このような発達性トラウマにアクセスするには身体に触れる必要があります。
乳幼児期は大変な出来事があっても、大人のように戦ったり、逃げたりすることができません。戦う・逃げるができないと凍りつきが生じます。生き残るためのエネルギーは自律神経系だけではなく体の部位に蓄積されています。学校に行きたくなくて子供がお腹が痛いというのは仮病ではありません。偏頭痛、慢性的な痛み、慢性的な疲れ、胃腸の不調、自律神経失調症、自己免疫不全などの背景に発達性トラウマがある場合があります。SE™️タッチでは、患者やクライエントの体に手を置くことで出口がなくて蓄積されているエネルギーの解放を導いていきます。
患者やクライエントによっては、体に触れることに抵抗がある場合もあります。もちろんその場合は無理に触れることはせず、自分自身で触れたり、イメージを使って触れたりなどの方法をとります。安心と安全を大切にしていきます。
トラウマを克服するセラピーを受けてみたい
SE™️は、対面でもオンラインでも受けることができます。トラウマに対する心理療法の中ではとても安全な方法です。これまで薬物療法や心理療法を受けてもあまり良くならなかった人でも改善していくケースも多いです。関心のある方はホームページからお申し込みください。